※このブログには天久鷹央の推理カルテ(2)
ファントムの病棟感想、ネタバレ含む
目次
ブログ引越しにつき、感想の順番がバラバラなのは御愛嬌で
今作は甘い毒、吸血鬼症候群、天使の舞い降りる夜の三部構成
大雑把な前説と紹介
タイトルにカルテとあるように医療&ミステリー
総合病院を舞台に表紙の女性、天久鷹央(27歳150㎝未満で酒豪)が主役。主観になってるのは彼女の部下、小鳥遊優(鷹央より2つ年上で鷹央以外の会う女性に片っ端から声をかけてはフラれるを繰り返す)で、年下上司に振り回される日常
鷹央先生は病院の理事長の娘にして副医院長。病院の屋上にレンガの一軒家(平屋)があってそこに住んでる『座敷童』。小鳥が遊ぶと書いて「たかなし」と呼ぶ小鳥遊は、鷹が上司であるからと「小鳥」と呼ばれ、『統括診断部』に所属。その『統括診断部』は診断困難な患者が行くところ、とされているが、実際は扱いに困る患者が流れ着く、特命係の医療版みたいなイメージ
表紙のイラストはいとうのいぢ先生
気持ちシャナなので鷹央先生は釘宮ボイスで脳内再生される
前作に続き、当然だけど作中には医療関連の情報が多い
僕は一応薬学部を卒業してるから、内科とかの疾患や薬に関しては「あ、アレね」と軽く読んだだけで分かってしまうけど、医療に関する知識が全く無くても分かりやすい説明で抵抗なく読めると思う。ただ、鷹央先生はキャラが強いから、やや上から目線で、そんなことも知らないのか?という説明が多いから、ツンデレ耐性あった方が良いのかもしれない
甘い毒
大型トラック運転手がコーラを飲んで運転中に身体が痺れ、単独事故を起こしたところから始まる。ドライバーはかなりの巨漢で糖尿病や脂質異常症が疑われ、事故原因としててんかんや脳梗塞を疑うが今のところ検査に異常はない。ならばと睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑うが、そもそも誰かを巻き込むことのない単独事故にもかかわらず、顔見知りの成瀬刑事が登場する事態になってしまったのには、トラック運転手が妙なことを言い出したからだった
飲んだコーラに毒が入っていた、味がおかしかったんだ、と運転手が主張。ちょうどその頃、ペットボトル飲料に農薬が混ぜられていたというニュースが世間を騒がせていた
しかしコーラを検査してみたところ毒物は確認されず、運転手の基礎疾患も脂肪肝が指摘されていたくらいのもので、飲んだペットボトルすり替え疑惑も浮上したが、尿検査でも毒物の反応は無かったため捜査の進展は無く運転手は退院させられた
と思いきや、意識消失、痙攣し救急搬送される事態に
事件か事故か、犯人が誰か、原因は何か
こういう事件、事故は現実でもメディアを通してよく聞く事案。原因疾患についても報じられることはよくあるが、そういう人に免許を~、と叩かれる原因として取り扱われるだけで、真面目に考える人は少ないだろう。毒物はさておき、基礎疾患だったり、誤って使われた治療薬が思わぬ大事故を起こしてしまう可能性は誰にでもある。なので、フィクションとはいえ事故や疾患について注目し、報道では一切語られないであろう医療の側面を見てみるのはなかなか面白い
吸血鬼症候群
以前まで鷹央先生のいる病院に勤めていた女性看護師が、現在勤めている病院で起こった怪事件の調査を依頼する。ナースステーションで管理していた輸血用パックが盗まれたという事件…。それだけならただの盗難で警察の案件なのだが、盗まれるものが輸血用パックと特殊なものであることと、後でちゃんと発見されることから、大事にしたくないという気持ちもあって、統括診断部…というか面白そうなこと専門の天久鷹央先生案件という流れに。輸血用パックには歯で開けたような痕跡があることから、鷹央先生は吸血鬼だと大喜び
輸血用パックを盗んだ犯人は本当に吸血鬼なのか?それとも血を欲してしまう何かの疾患なのか?
統括診断部は面白いことがあれば見た感じ医療とは関係のないことでも首を突っ込んでしまいます、っていう日常回。病院内で起こる怪奇現象はちょっとしたホラーだけど、科学的に、医学的に結論を出すというところが面白い
天使の舞い降りる夜
小児病棟でおかしな急変が続いているので原因を探って欲しい、と鷹央先生の叔父で医院長の天久大鷲から直接依頼される。天久大鷲医院長は前巻(1)でも登場した通り、鷹央先生とは犬猿の仲。医院長叔父と副医院長姪の関係だが、医療方針を経営的ビジネスで考えるところが多い医院長は診断重視の鷹央先生と対立関係。しかも医院長は、これは統括診断部の本業であり依頼ではなく命令だという態度。それに加え、鷹央先生は個人的に小児病棟へ顔を出したくない理由があった
急変があったのは三人。それぞれ嘔吐、喘息発作、徐脈性不整脈。三人の共通点らしい特徴は無く、あって精々小児用プレイルーム(遊び場)を独占する悪ガキくらいなもの。それ以外にも、小児病棟が抱える問題として天使の目撃情報があるということだった
そんな天使の目撃情報と立て続けに起こる急変、そういうのをメインに担当しなければならないという統括診断部の宿命…
今回は鷹央先生の個人的なサイドストーリ的なのを含む回。医療を志すのならば絶対に向き合わなければならない、人の臨終に立ち会わなければならないというところ。なので事件を鮮やかに解決したり、難しい疾患を見事に診断という爽快感は無く、比較的重めの内容。これもまた医療の宿命。医療モノの作品ではあって当然の展開ではあるけれども、慣れと言って雑に扱うのもおかしいし、医者なんだからそれくらい、と言うのもおかしい。別に医者に限らず、薬剤師にも言える話で、僕も考えることが多かった
総評
必要医療知識:★★☆☆☆
ドラマ的要素:★★★☆☆
ラブコメ:★☆☆☆☆
ワクワク:★★★★☆
ドキドキ:★★★☆☆
(1)を読んでるからというのもあるけど、初回から読んでも全く問題ない面白さ。でも言ってまだ1と2だから、登場キャラ同士の関係性の進展だとか、前作を読んでなければ分からないような内容に発展していないだけとも言える。僕が薬学を出てるから少なからず医療知識がある立場で楽しいと言ってるだけ、と思われるかもしれないが、正式名称こそ知らないだけで疾患の想像は出来ると思うし、絶対失敗しない系医療ドラマが好きなら好きになるんじゃない?とも思う。医療、医者というところに無理して変な壁や抵抗感を作る必要は無い
逆に医療知識がありすぎると、こんな疾患でこんな症状がよく起こるわけないだろ、的なケチをつけたがる人も居そうだが、僕は精々知ってる疾患や薬の名前が出てニヤニヤする程度。国家試験にも出題される定番中の定番が並び、コレが出たってことはここは疑ってみるべきだよな、よし正解!と、知識があればより面白くなることは間違いないと思う
そうじゃなくとも、名医が教える○○健康法、○○さんに起こった病気とは?みたいな健康番組が好きな人なら、間違いなく夢中になれるはず
ミステリーは鮮度が大事。謎が大事。だから答えは書いてない
ネタバレ含むとは書いたけどね
気になるのなら是非買うか借りるかして読んでみてください
あと、最後に一つだけ
確かにこれはフィクションでミステリーだけど医療
普通のミステリーなら一度読んで解いてしまったらそれで終わってしまう
だけど医療の現場は同じような疾患を抱える人が次々にやってくるわけで
結局何が言いたいかっていうと
誰も分からない疾患を見つけて凄いとか、絶対不可能な手術を可能にして凄いとか、誰もが知ってて分かる疾患で、かつ簡単に手術で治るものであっても、そこに上とか下とかはなく、目の前にいる患者に全力で応えるのが医療だというのをお忘れなく